日本再生歯科医学会誌(略称:再生歯誌) 1巻1号 pp.67-81
2003.12.30
Journal of the Japanese Association of Regenerative Dentistry
(J Jpn Assoc Regenerative Dent)
ISSN 1348-9615


第1回 日本再生歯科医学会 学術大会抄録
(pp.67-81)

大会長 岡山大学大学院医歯学総合研究科 教 授 吉山 昌宏
大会準備委員長   清水 洋利
 
日時  平成15年10月14日(火)
 
場所  岡山大学歯学部4階 第1講義室
 
 
 
 
特別講演
「再生歯科医学の現状とその展望」
 
東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 摂食機能制御学分野
春日井昇平 教授
pp.68
演者略歴
インターネットにおける個人情報公開は略させていただきます.

 研究テーマ
・歯周組織と骨の再生法の開発
・生体親和性を増強した歯科インプラントの開発
 
 我々歯科医は,口腔組織の喪失に対して,失った組織を人工材料で補填することにより機能を回復する治療を行っています.一方,喪失あるいは機能の低下した組織や器官を再生させることによって機能の回復を図る再生医療が近年注目を集めています.従来の材料で欠損部を補填する方法では,回復できる機能に限界があることから,21世紀の新しい医療として再生医療に大きな期待が寄せられています.歯科においても,すでに象牙質,歯周組織,骨,粘膜の再生が臨床的に可能になっています.本講演においては,歯科領域における骨造成法について我々の実験結果を含めて概説し,近未来の歯科における再生医療について私の考えを述べたいと思います.
 
 
 
特別講演
「象牙質 / 歯髄複合体の再生の可能性」
 
東京歯科大学歯学部 臨床検査学 井上 孝 教授
pp.69
演者略歴
インターネットにおける個人情報公開は略させていただきます.

著書
井上 孝,武田孝之,インプラントの病理と臨床:1-315,歯科評論社, 東京, 1999
井上 孝,武田孝之,インプラントがよくわかるQ&A70,1-190,医歯薬出版,東京1999.
井上 孝,高野伸夫,口腔病変イラストレイテッド:1-214,医歯薬出版, Mook, 東京, 1999
井上 孝,歯科なるほどホント学:1-131,デンタルダイヤモンド社, 東京,2000
井上 孝,歯科なるほどボウケン学:1-130,デンタルダイヤモンド社, 東京, 2001
井上 孝,松坂賢一,チェーアーサイドの臨床検査,デンタルダイヤモンド,2003.
井上 孝,歯科なるほどケンサ学,1-117,デンタルダイヤモンド社,東京,2003.
 
 欧米では20年程前から始まっている歯科医療革命が,やっと最近日本で騒がれるようになった.新聞にも思い切った方向転換の必要性を問う社説が見られ,幼い頃からの齲蝕予防教育,フッ素入り歯磨粉の導入,探針による検査の廃止,薬の副作用に唾液を減少させるものがあればそれを記載させる,歯科医師が齲蝕活動性試験や唾液緩衝能の検査を積極的に行なうなどを根幹にした話を目にする機会も増えた.技術材料に主眼を置いていた歯科医療ゆえ,一度罹患してしまった感染歯髄を保存することはありえないと考えていた我々も,置換医療から予防再生医療への変換を求められる時がきたようである.歯髄は痛みがある時のみ存在感を示す組織でその診断は難しく,歯科医師が抜髄処置をすることで再生の可能性を葬ってしまった時代であった.今回,感染していても歯髄を保護する時代に向かうための可能性に再生医療的観点より考える.

 
 
rhBMP-2誘導性硬組織形成に対するphosphophorynの影響
 
 
斎藤 隆史,小林 文人,吉山 昌宏,別所 和久
 
北海道医療大学歯学部歯科保存学第二講座
岡山大学大学院医歯学総合研究科生体機能再生・再建学講座
歯科保存修復学分野
京都大学大学院医学研究科感覚運動系病態学講座
口腔機能病態学分野
pp.70
 
 
 phospophorynは,酸性基に富み,カルシウムイオンとの高い結合能を示す象牙質リンタンパク質である.これまでに我々は,in vitro実験系においてphosphophoryntype I collagenと共有結合した場合に強力に石灰化を誘導することを見い出し,象牙質石灰化においてphosphophorynが重要な役割を果たすことを明らかにした.
 また,BMP-2は硬組織形成を強力に誘導する成長因子であり,象牙質再生医療への応用が強く期待されている.しかし現在,効果的な担体の開発が待たれているところである.
 本研究では,phosphophoryn-collagen複合体がBMP-2の効果的な担体となりうるかを検討することを目的として,ラットにおいてBMP-2/phosphophoryn-collagen複合体による硬組織誘導実験を行ったところ,興味深い知見が得られたので報告する.
 
 
 
 
歯胚の発生におけるCCN2/CTGFの発現と機能解析
 
 
志茂 剛1,2, Eiki Koyama2, Maurizio Pacifici2, 佐々木 朗1
 
岡山大学大学院医歯学総合研究科 歯顎口腔病態外科学
Thomas Jefferson Medical College, Philadelphia, PA 19107 U.S.A.
pp.71
 
 
歯胚の発生は形態形成,上皮と間葉の相互作用,細胞の増殖,遊走,分化と多様な過程から成り立っている.我々は軟骨細胞,骨芽細胞の増殖,分化に重要な役割を担うCCN2/CTGFのマウス歯胚の発生段階における発現,またその役割について解析した.In situハイブリダイゼーション法によりCCN2/CTGF mRNAは最初に歯堤に誘導され,蕾状期では上皮の陥入部,間葉組織の凝集部位,鐘状期にはエナメル結節,前エナメル芽細胞に発現パターンを変化させ,成熟エナメル芽細胞でその発現は消失することが明かとなった.またマウス歯胚の上皮と間葉組織の分離実験により上皮組織でのCCN2/CTGFの発現維持にはTGFbeta1BMP2が必須であることが判明した.またマウス歯胚に抗CTGF中和抗体をマイクロインジェクションし器官培養すると,上皮と間葉細胞の増殖能,分化能共に完全に阻害された.さらに我々は酵素処理法によりウシ鐘状期歯胚の未分化な上皮と間葉細胞初代培養系を確立し,これらに組みえCCN2/CTGF蛋白質を作用させると濃度依存的に増殖能が増加し,抗CCN2/CTGF中和抗体でその作用は阻害されることがわかった.これらのことからCCN2/CTGFは歯胚発生過程で特異的な時期と部位に発現し,その上皮での発現は間葉からのTGFbeta1BMP2によって制御されており,未分化上皮,間葉細胞の増殖,さらにエナメル芽細胞と象牙芽細胞の分化に重要な役割を担っていることが示唆された.
 
 
 
象牙質接着材成分のストレス蛋白に及ぼす影響
 
 
野田 守, 佐野 英彦
 
北海道大学大学院歯学研究科口腔健康科学講座
齲蝕制御・保存修復学・歯内療法学分野
pp.72
 
象牙質への接着力向上に伴い,コンポジットレジン系材料が覆髄材あるいは歯髄付近で使用されるようになった.歯髄細胞への影響は賛否両論あり,二次象牙質形成を組織学的観察で議論されている.
歯科材料の細胞ストレスへの影響を検討することで,より効果的な二次象牙質誘導が可能と思われる.本研究では,象牙質接着材成分のヒト単球系THP-1細胞の熱ショック蛋白質(HSP72)誘導への影響を検討した.
THP-1細胞を42℃で1時間刺激後,HEMA0-10M)あるいはTEGDMA0-1M)を添加し,6時間培養した.熱刺激で誘導されたHSP72をウェスタンブロッティング法で検出した.
HEMATEGDMA共にHSP72の誘導を添加濃度に依存して抑制した.HEMATEGDMAの溶出は多数報告されており,これら象牙質接着材成分の存在下では細胞のストレス対応能力が低下している可能性が示唆された.
 
 
 
コラーゲンを固定化したエチレンビニールアルコールの
象牙質再生療法への応用の可能性
pp.73
 
○西谷 佳浩,山田 登美子, Rene Itamar Nunez SUGAWARA,清水 洋利,吉山 昌宏
 
岡山大学大学院医歯学総合研究科
生体機能再生・再建学講座 歯科保存修復学分野
 
 
近年,著しい発展を遂げた接着修復技法を応用した新しい象牙質う蝕治療法の一つとして,シールド・レストレーションが提唱されている.吉山らは,さらにう蝕感染象牙質を樹脂含浸層で封鎖することで病的歯質をも含めた歯質保存治療が可能となることを提唱している.
 我々は,この超保存修復療法ともいえる研究を進める一方で,現在の保存修復臨床の中で抜髄を余儀なくされるケースが後を絶たないのが現状であることから,従来の水酸化カルシウムを用いた直接覆髄を脱却した生物学的覆髄法の開発が急務であると考える.そこで接着技法を応用した生物学的覆髄法の開発の第一歩として,彭らがヒト歯根膜由来細胞で高い生体親和性を有することを示したエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下EVA)にコラーゲンをコートしたコラーゲン固定化EVA(以下EVA+C)のヒト歯髄由来細胞の生物学的親和性を評価した.
 
 
 
エナメルマトリックスデリバティブはBMPによる
軟骨誘導を抑制する
 
 
○小池 吉彦,松坂 賢一,井上 孝
 
東京歯科大学 臨床検査学研究室
pp.74
 
目的:本研究の目的は,生体内においてエナメルマトリックスデリバティブのBMPによる軟骨誘導への影響を形態学的ならびに遺伝子学的に検索することである.
方法:ラット腹直筋内にエムドゲインREMD)とプロピレングリコールアルジネート(PGA)を注入した脱灰・非脱灰象牙質管を他家移植し71421日後に屠殺し,形態学的・遺伝子学的に検索した.
結果:非脱灰群ではいずれの日数例においても硬組織は観察できなかった.714日例においてPGA群ではEMD群に比して軟骨形成量が高かった.7日例におけるPGA群のオステオポンチンのmRNA発現量は,EMD群のそれよりも少し上昇したが,PGA群とEMD群間のオステオカルシンのmRNA発現量には明らかな差は見られなかった.
結論:これらの結果よりEMDPGAともに軟骨誘導能は無いことが示唆され,EMDBMPの効果を抑制する可能性が考えられた.
 
 
 
β-TCP /コラーゲンコンポジットスポンジによる
in site tissue engineeringを用いた骨再生
 
 
○松野 智宣1,3,中村 達雄3,呉本 晃一3,中原 貴,北原 和樹1,宮坂 孝弘1
佐藤田 鶴子1,清水 慶彦3
 
日本歯科大学歯学部口腔外科学講座,日本歯科大学歯学部発生・再生学
京都大学再生医科学研究所臓器再建応用分野
pp.75
 
骨再生のためのscaffoldは生体吸収性で自家骨に置換するものが望まれる.そこで我々はβ-TCP顆粒をアテロコラーゲンと混合し,凍結乾燥・熱架橋処理してスポンジ状にした生体吸収性scaffoldを作製した.これにイヌ上腕骨頭部より採取した骨髄から単離・培養したbone marrow mesenchymal stem cell(BMSC)を含浸させ,背部皮下に埋入して骨形成を組織学的に観察した.また,対照にはBMSC含浸コラーゲンスポンジを埋入した.その結果,コラーゲンスポンジは1ヶ月でほぼ吸収されていたが,その後の骨形成は認められなかった.しかし,β-TCP /コラーゲンコンポジットスポンジは3か月でβ-TCP顆粒周囲の吸収とそれに伴う骨形成が認められた.これらの結果からこのscaffoldはin site tissue engineeringによりMSCから骨形成を導くことがわかった.
 
 
 
人工歯根周囲の歯周組織再生の試み
 
堤 定美,玄 丞烋,松村 和明,井汲 憲治,彭 春岩
 
京都大学再生医科学研究所生体機能学部門シミュレーション医工学分野
pp.76
 
 人工歯根は骨と直接結合することが成功のゴールとしているのが現状である.しかし,天然歯根のように歯根と歯槽骨とを結び付けている歯根膜は存在せず,咬合力の緩衝がないため,骨吸収を起こす危険性があり,咀嚼機能の回復もかなり制限される.
 歯根膜には豊富な血管,神経,細胞成分を含み,咬合力の知覚,緩衝,さらに咀嚼運動からの反射的調節などの重要機能を営んでいる.したがって,人工歯根においても歯根膜をもつことができれば天然歯根に近い理想的なインプラントに近づく.
 著者らは歯根膜が有する生体力学的機能,例えば歯の矯正移動時のセンサー機能や衝撃緩衝機能に関する力学シミュレーションによって歯根膜の重要性を確認しており,インプラントの寿命を延ばすため,歯根-セメント質-歯根膜-歯槽骨の関係を再生するハイッブリッド型人工歯根の開発研究を行っている.
 そこで我々は歯根膜再生を目的としてチタンインプラントにエチレンビニルアルコール共重合体(EVA)を被覆し,表面処理後,コラーゲンを固定化した材料上に歯根膜細胞を培養し,動物埋入試験を続けてきた.イヌ顎骨に3月間埋植され力学的刺激を受けた人工歯根周囲には天然歯と同様に歯根面と歯槽骨を結ぶシャルピー繊維を有する歯根膜の再生が観察された.
 また,歯根膜には様々な細胞が共存することがわかっており,これらの細胞の増殖・分化をコントロールすることでセメント質や歯根膜を含む歯周組織全般を人工歯根上に再生させることが可能と考えられる.
 本報では人工歯根上での歯根膜細胞の培養と機能発現ついて調べた結果を報告する.
 
 
 
ヒト歯髄由来間葉系幹細胞の細胞接着ならびに増殖に対する
各種成長因子の影響
 
園山 亘1,藤沢 拓生,大野 充昭1,志茂 剛2,西田 崇3,滝川 正春3,窪木 拓男1
 
1岡山大学大学院医歯学総合研究科 顎口腔機能制御学分野
2岡山大学大学院医歯学総合研究科 歯顎口腔病態外科学分野
3岡山大学大学院医歯学総合研究科 口腔生化・分子歯科学分野
pp.77
 
象牙質再生を実現するために,歯髄由来間葉系幹細胞の細胞接着,ならびに増殖に与える成長因子の効果を検討した.ヒト歯髄由来間葉系幹細胞は健全抜去歯から分離し,20%血清を含むα-MEMを用いて培養した*.これらの細胞はRT-PCR法によりdentinsialophosphoproteinを発現していることを確認したうえで以下の実験に供した.細胞接着は,TGF-β,bFGFCTGF2050100ng/mlの濃度でプラスティック培養皿にコーティングし,無血清培地で播種後3時間の接着細胞数をMTS法により評価した.細胞増殖は,通常血清濃度(20%)の培地で播種後24時間経過した時点で上記の因子を各濃度で含む0.1%血清添加培地に交換し,8日目までの細胞数を細胞接着と同様にMTS法により評価した.その結果,細胞接着ならびに細胞増殖は全ての成長因子により様々に促進された.今後は,TGF-βやbFGFCTGFをコーティングでき,生体異害性のないキャリアの開発が急務と思われた.
*Gronthos S. et al. PNAS 97: 13625-13630, 2000
 
 
 
羊膜上培養家兎口腔粘膜上皮シートの作製
 
○雨宮 傑,山本 俊郎,中村 輝夫,福島 淳夫,中村 隆宏,木下 茂
金村 成智
 京都府立医科大学大学院医学研究科歯科口腔科学
 京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学
pp.78
 
 今回われわれは,ヒト羊膜を基質に用いた家兎口腔粘膜上皮細胞の培養を行った.白色家兎から口腔粘膜組織から上皮細胞を採取し,保存羊膜を基質として3週間の培養を行った.そして作製した羊膜上口腔粘膜上皮細胞の組織学的,免疫組織化学的検索を行った.結果として,培養口腔粘膜上皮細胞は羊膜上にて57層に重層化を示し,蛍光抗体法にてケラチン3413の陽性反応を示した.家兎口腔粘膜上皮細胞は,羊膜上にて分化,重層化し,また粘膜分化発現を示した.羊膜は,・型コラーゲンおよびラミニンからなる基底膜を持ち,また高い生体親和性を有していることより,上皮細胞培養の基質として妥当な組織であると考える.さらに抗炎症作用,感染抑制的作用,増殖因子(EGFKGFなど)による上皮化促進作用なども有しており,これを用いた培養口腔粘膜上皮の作製は,今後,有用性の高い新たな培養上皮シートとなりうる可能性があると考えた.
 
 
ES細胞による細胞分化誘導因子スクリーニング法の開発
−Mouse Osteocalcin量について−
 
○今井 弘一,中村 正明
大阪歯科大学歯科理工学講座
pp.79
緒 言
 我々はMouse由来のEmbryonic stem cellD3(以下,ES-D3細胞)の分化の程度から化学物質の分化誘導レベルを推測できるスクリーニング法について考案し検討してきた.Embryoid Body (EB) とコラーゲンゲルを用いた3次元培養を行い,Mouse Osteocalcin量を測定した.
実験材料と方法
培養液:容積比1%NAA,β-MercaptoethanolL-Glutamine添加DMEMに,容積比20fetal calf serumを添加した.ES-D3細胞を3.75×104 cells/mLに調整し,炭酸ガス恒温器内で3日間懸滴培養しEBを作製した.
2次元培養:EBを培養液とともに12well multi-dishに入れ,2日間培養した.
3次元培養:Type Tコラーゲン8mL,濃縮培養液(10X)1mLreconstruction buffer 1mLを氷冷下で撹拌後,intercell上に混合液を300μL分注した.各intercell12well multi-dishに入れ,intercell外側に培養液を2mL分注した.EBをゲルに埋入し,2日間培養した.さらに,EmdogainDexamethasoneBetamethasoneBetamethasone Valerate Betamethasone DipropionateFolic AcidCholecalciferolL-Ascorbic Acidを分注し,最大28日間培養し,Mouse Osteocalcin量を測定した.なお,対照群は試料無添加とした.
結果と考察
2次元培養ではMouse Osteocalcinはいずれも認められなかった.一方,3次元培養では培養21日後に11.1μg/mL,培養28日後に9.9μg/mLであった.8種類の化学物質の中でBetamethasoneBetamethasone ValerateBetamethasone DipropionateFolic AcidCholecalciferolOsteocalcin量の増加が認められた.一方,L-Ascorbic AcidではOsteocalcin量が低下したが,この結果はIC50値に近かったことによると考えられる.また,EmdogainDexamethasoneは対照群と有意差が認められなかった.
 以上,ES細胞の分化誘導に3次元培養法が有効であることが確認でき,さらに化学物質の添加によりMouse Osteocalcin量の増加を確認できた.今後これらの化学物質による分化誘導の機序についてさらに解明する必要があると思われる.
 
 
 
骨芽細胞の機能発現におよぼす歯肉線維芽細胞代謝産物の影響
 
鎌田 愛子1,吉川 美弘1,川本 章代2,合田 征司1,堂前 英資1,小正 裕2
池尾 隆1
 
大阪歯科大学 1生化学講座,2高齢者歯科学講座
pp.80
                 
歯周疾患が改善して歯肉が新付着として回復しても,疾患によって吸収・破壊された支持組織は元には回復しない.このような歯周組織の再生を考えるとき,組織間の相互作用を考慮する必要がある.そこで,歯槽骨再生における環境因子を理解するために,骨芽細胞におよぼす歯肉線維芽細胞代謝産物の影響をin vitroで検討した.ヒト健常歯肉線維芽細胞を無血清培地で培養後,その培養上清を株化骨芽細胞様細胞に添加した.
24時間培養後骨芽細胞における骨代謝マーカーやマトリックス成分のmRNA発現を調べた.その結果,?型コラーゲン,オステオカルシン,アルカリホスファターゼの発現は培養上清添加で減少したのに対し,オステオポンチンは著明に増加した.これは歯肉結合組織由来細胞が骨芽細胞の機能発現に抑制的に働くことを示している.したがって,歯槽骨の再生では歯肉結合組織の影響を最小限にとどめることが必要ではないかと考えられた.
 
 
 
象牙質再生療法の開発
−CTGF刺激によるヒト歯髄細胞における
オステオネクチンの発現の解析−
 
 
○高木 ,武政 栄作,清水 洋利,大池 麻紀子,西谷 佳浩,山田 登美子
高橋 和宏,田代 陽子,西田 ,滝川 正春,吉山 昌宏
 
岡山大学大学院医歯学総合研究科 歯科保存修復学分野
岡山大学大学院医歯学総合研究科 口腔生化・分子歯科学分野
pp.81
 
歯科保存修復において歯髄保存療法の確立と象牙質再生療法の開発が急務であると考えられる.
本研究では,象牙質基質タンパクの一つであるオステオネクチンに着目し,CTGF刺激による培養歯髄細胞の分裂増殖に対する影響ならびにオステオネクチンの発現に対する影響について解析を行った.
ヒト歯髄細胞をαMEM中にて遊走法により歯髄組織から分離し,6代から8代継代したものを実験に供した.培地中に50ng/mlになるようにCTGFを添加し,6-wellプレートにて培養を行った.培養24, 48, 72, 96時間後,細胞の増殖について倒立顕微鏡にて観察を行った.また,歯髄線維芽細胞を上記と同条件で4-wellチャンバースライドにて培養し,各時間培養後,10%中性ホルマリンにて固定し,抗ヒトオステオネクチンマウスモノクローナル抗体を用いて,LSAB法にてオステオネクチンの発現と局在に対して免疫組織化学的解析を行った.
倒立顕微鏡による観察の結果,無血清培地における培養と比較してCTGFを添加した場合,種々の成長因子が含まれている10%FCSを添加した場合と同様に顕著な歯髄細胞の分裂増殖が観察された.このことから,CTGFは単独でも歯髄細胞を分裂増殖させる機能を有すると考えられる.免疫組織化学的解析の結果,CTGF刺激により増殖がみられた歯髄細胞においてオステオネクチンの顕著な発現が観察された.このことから,CTGFは歯髄細胞において象牙質基質タンパクの一つであるオステオネクチンの発現を誘導する機能を有すると考えられる.



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