日本再生歯科医学会誌(略称:再生歯誌) 1巻1号
2003.12.30
Journal of the Japanese Association of Regenerative Dentistry
(J Jpn Assoc Regenerative Dent)
ISSN 1348-9615
巻 頭 言
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 江藤 一洋
今度の「日本再生歯科医学会」の設立のこと、まことに慶賀にたえません。吉山昌宏学会長の設立へのご努力に、改めて敬意を表します。
さて、今なぜ「再生歯科医学」なのかであります。すでに再生医学が喧伝され始めて数年が経ち、すでに米国ではベンチャー企業は手を引き始めたといわれている今、本学会を立ち上げる意味であります。日本の医療用具の売上高は平成13年度で2兆3500億円であり、そのうち国産は1兆5000億円(65%)です。歯科医療用具に限れば、総売上げ1600億円のうち、国産は1300億円(80%)であり、さらに歯科材料が1200億円を占める中で、国産歯科材料は1000億円(84%)と、日本の歯科材料開発力がきわめて高いことがわかります。しかしこのままではこれ以上の発展が望めないことを、学会も企業も予見しているはずです。医科における治療は薬物で、歯科治療は材料が主流であることには、これからも変化はないと思われます。しかし、材料の質がインプラントの例を引くまでもなく無生物材料から生物材料へと移りつつあることは否定できません。これは歯科治療の概念までも変えていく大きな転換であり、これが時代を見据えた本学会の立ち上げのバネであると考えております。
再生歯科医学は新しい研究領域であり、学際的研究領域としてこれを切り拓かなければ展望は望めません。口腔領域における幹細胞の発見と確立は生物学の問題ですが、細胞の足場として細胞を時間的、空間的に情報制御する細胞外マトリックスの生体内構築は生物学と理工学の問題であり、さらに細胞と細胞外マトリックスで組み立てられた口腔組織への咬合力の作用は力学即ち工学の問題であることを考えれば、学際の意味はさらに重要です。
一方、再生歯科医学は、実際に患者さんを対象に行う臨床研究であることを考えれば、その科学性、安全性、倫理性、社会性等が厳しく問われます。現在、再生医療は各医療機関の倫理委員会の承認を得ればよく、薬の臨床治験のような厳しい審査は日本では確立されておりません。細胞を無菌的に処理・加工する施設・設備の整備等、細胞・組織に基づく製品の製造過程における安全性と品質管理基準を示すガイドライン作成は、早晩必要となりましょう。本学会の社会的責任としてこれの作成に関与することは重要と思われます。
本学会にとって克服すべき課題はいくつかありますが、歯科材料が歯科医学における中心的研究テーマの一つであることは21世紀においても変わりありません。「日本再生歯科医学会」が歯科医学の再生の礎とならんことを期待しております。
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